第15章 エンリ帝国 〜2節 縦帆船(じゅうはんせん)〜

エンリ帝国が造船帝国として栄えた理由は、オモイカネによる縦帆船の製造、操作技術である。
船というものは、当たり前だが風が無ければ動かず、追い風を受ければ前に進む。
向かい風では目的地に着く事ができない。

世界の人々が船の絵を描くと、だいたいが筏(いかだ)の形であり、帆は四角形に張られる。
この四角形の帆を、エンリ帝国では横帆船(おうはんせん)と呼ばれ、
オモイカネの知識によって帆を縦に張った縦帆船(じゅうはんせん)は三角形である。
この三角形の帆は向きを調整する事により向かい風でも斜めに進む事ができる。
これによって向かい風でもジグザグに進めば目的地に着く事ができるのだ。

この縦帆船の製造と操作技術によってエンリ帝国はレインボーラインを自在に航行した。
しかしある時、エア王国が産業開発拡張のために川を灌漑(かんがい)し産業汚水を流す事を防ぐために、エア王国との同盟を余儀なくされる。
汚染された海は、中立地満月島や海賊イシュターにも影響を及ぼす事からエンリ帝国だけの問題ではない。
同盟は帝の思慮と玉の判断によるものだった。
ただし、同盟による造船技術の提供には条件を付けた。
縦帆船の知識や技術は知っているからといって経験が無ければどうにかなるものではない。
エア王国が製造した縦帆船にはエンリ帝国から航海士を派遣する事とし、エア王国もそれを承諾した。
こうしてやむを得ない同盟ではあったが、
玉の判断により、エア王国の船を監視、管理する事はできたのだ。

だがその先は誰が予想できた事であろうか。
エア王国は最終的には帆の縦も横も技術も操作も、どうでもよかったのだ。
欲しいのは筏(いかだ)ではない船の原型である。
最終的には火力を動力とする火力船となり、風と無関係に進む戦艦となる事など予想できるはずもない。

玉に非は無い。
玉は最善を尽くしたのだ。