第14章 ゆっくり寝て過ごす

7日目の朝、家族のもとへとたどり着くと、
テントの中に演出家のオモイカネとアル・ルのクノイチの姿は無かった。

クノイチの病状が悪化し、体内で増殖を繰り返す病魔。
このままでは7日ももたないと、ラヴィを込めた岩石にて結界を作り出していた。

究極の結界(TERRITORY)
十角形 デカゴン ~アマテラス~
を1人で作り上げ、その中心でクノイチの体内で増殖する病魔を自らの身体に取り込んでいた。

演出家のオモイカネの頬はこけ、体はやせ細っていた。
それは、誰が見ても死にゆく者の体。

3人のオモイカネの子供達はまず、クノイチの身体にいる病魔に照準を当てて治療した。
無言で治療をおこない、その間、親の咳が聴こえる度に、唇を噛みしめ、
瞳に涙を溜めながらアル・ルのクノイチの治療に専念した。

演出家は白馬のクノイチに気付いた。
あの時、オモイカネは裁判に入れず、外から見守った時、
最後まで仲間のオモイカネを守ろうとした白馬のクノイチに
「お久しぶりです。あの時はありがとう」と礼を言った。

白馬のクノイチは、裁判の間違いを伝えた。

治療が終わると、演出家は結界を解き、倒れた。
すでに病魔は全身の細胞至る所に転移していた。
それでも治そうと近づく子供達に首を振り、治療を拒み

「お前たちの作品が見たい」

と言った。

 

3人の子供達は、その場にある石をステージに、歌い、奏で、踊った。
風の音は石の空洞を通って鳴り響き、羊達の足音が大地のリズムとなり
空には翼を広げた飛翔の音色が飛び交い、3人の演奏を彩った。
空は黄昏から月夜に変わると、満月の光が差し込み、月の光が虹を生み出した。

3人の奏でる作品に演出家は不要であった

演出家は言った。
「願っていた日がきたようだ」

子供達は言った。
「やっと、ゆっくり寝られますね」

演出家は笑いながら言った。
「起こすなよ」

子供達は言った。
「いえ、あの時に言ったはずです」
「必要な時が来れば起こしますね」
「また、いつの日か、必ず起こします」

空にはオーロラの階段が現れた。

演出家はゆっくりと眠りに着いた。

 

『季節を愛し眠る人』
ライラックの 告げる 麗(うらら) 仮初(かりそめ)の色
紫(むらさき)語る 春 時の流れよ

今も尚 余す 記憶 私を創る
置き忘れた 恋 あの日の渚

暁の虹 緋連(ひれん)の鳥が 風を詠み 共成(ともなり)の夢見る

決められた未來(さき) 暇乞い(いとまごい) かの終章(エプローグ)
されど 実れよ 落葉樹のように
旅の書き手は 慈(いつく)しみ 光 添える  季節愛し 眠る人

茜(あかね)雲(ぐも) 過ぎ去りし 聊か(いささか)の時
流木の白き 旅路の果てよ

想い出は 消せぬ記憶 選べぬ定め
つじつま合わせの 不器用な人

遊牧の民 安息の地へ 星を詠み 月と共に去り行く

もしあの時が 訪れず 始まりならば
幕は 煌(きら)めく オーロラのように
旅を導く皆の師は 灯(あかり) 照らす  笑顔祈り 眠る人

決められた未來(さき) 暇乞い(いとまごい) かの終章(エプローグ)
されど 実れよ 落葉樹のように
旅の書き手は 慈(いつく)しみ 光 添える  季節愛し 眠る人

眠る人・・・眠る人・・・