第13章 砂漠の遺跡

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砂漠とは星の生命維持装置である。
生物の呼吸の際に排出される二酸化炭素は、砂漠の砂に住む微生物が吸収してくれている。
また、砂に含まれたリンやカリウム等の栄養分は風に乗り、他の大地へと届き、植物を育てている。
ユーフ砂漠の栄養分は南東に流れる風に乗ってレインボーラインを巡る。
海賊イシュターやエンリ帝国がある七色に輝く海は、栄養豊富な大地から流れた水によるものだ。
砂漠とは死の象徴ではない、星の、星の住人達の生命維持装置なのである。

太古の昔、九頭龍を封じ込めた大地に、オモイカネの神は船に乗って砂漠へと降り立った。
その船は九尾の狐の加護を受けた巨大な船であり、
ピラミッド型の九つの塔に一つの司令塔を足した十のピラミッドによる十角形の結界で守られている。
その結界内に引かれた対角線から全ての結界や隊列をも示していた。

着陸後は砂を支配するクノイチに支持を出し、船を砂の中へと沈めた。
船は遺跡となり、そのクノイチ達に守護を任せた。
砂漠の遺跡を守る民 ムシュ・バはこうして誕生したのだ。

そして、砂漠に沈んだ遺跡のピラミッドは、常に一つが地表に現れているが、
侵入者がピラミッドを見つけてもいつのまにか砂に埋もれ、別の部分が現れる。
こうして遺跡の位置が特定されない仕掛けとなっていたが、
ムシュ・バのクノイチだけはその移動するピラミッドの位置を把握していた。

 

時は流れ

貧困からムシュ・バの中では分裂がおき、いくつもの過激派集団に別れていった。

砂漠の民は指導者についていくリーダー至上主義である。
なぜならば、砂漠という環境で生きていくには指導者の指示が必要だからだ。
そして、指導者が示すべき道に異論を唱える者は「部族を惑わす者」「悪魔」として粛清される。
それほどに指導者の言葉は絶対的であり、その精神は深く根付いている。
しかし貧困となると若者の中から暴力で解決しようとする者達が現れ、結託する。
先人達が築いてきた知恵や経験に従うのではなく、暴力によって改革をおこなうのだ。

先進国でもこのような状態は起こるが、暴力は傷害でとどまるケースが多いのに対し、
砂漠の民の場合、暴力=強盗・誘拐・強姦・殺人
と、一体化している。
なぜここまで極端になるのかというと、それは砂漠という死の環境がそうさせるのかもしれない。
貧困から何もしなければ死んでしまう環境が、人を惑わすのだろうか。
環境が人を惑わし、惑わされた者達は結託し、それに異論を唱える者を惑わす者として粛清する。
まさに「悪魔」による惑わしの連鎖である。

暴力により異論者の街を破壊し、奪い、制圧する。
暴力により他部族を誘拐し、身代金でさらに組織を強化する。
暴力から欲望は垂れ流され強姦も日常化する。
妊婦を強姦の後、殺害し、取り出した子供の性別を当てるという遊びを10代の若者が平気で行うのだ。
まさに「悪魔」である。

星の生命維持装置で、なぜそのような所行がおこなわれるのだろうか。
神は環境に目を向け、悪魔は人に目を向けるからか。

悪魔の欲望は尽きる事が無い。
タジカラヲにはピラミッドの位置を把握する力は無いが、
ピラミッドの地下には財宝が眠るという噂が一人歩きし遺跡の周辺には幾つもの過激派集団が網を張っていた。
遺跡を見つければ破壊、他部族を見つければ強姦・誘拐・殺人をおこなうために。

 

その悪魔がうろつく死の砂漠に足を踏み入れた4人がいた。
家族を病魔から救うためにやってきた遊牧民 アル・ルのオモイカネと、義足のクノイチである。
7日以内に遺跡に眠るオモイカネの秘宝を持ち帰らねば家族の命はもたないのだ。

しかし、砂漠に足を踏み入れてからすでに2日が経とうとしていた。
見渡す限りの地平線、歩けど歩けど見えるのは砂、砂、砂、砂の山。
2日目の夜、4人が眠っているところ、何者かに食料を奪われた。
慌てて追いかけるも、砂が足に絡みつく。
盗人の足は決して速くは無いのだが、それ以上に砂が邪魔をした。
義足のクノイチがなんとか追い付いて捕まえると、涙ボクロの愛くるしいクノイチであった。
泣きながら謝るクノイチ、そこに追いつくオモイカネの3人
涙ボクロの愛くるしいクノイチが地面に頭を擦り付けて謝った時
その場に蟻地獄のような渦が現れ、4人は渦に巻き込まれた。
涙ボクロの愛くるしいクノイチだけはそれに巻き込まれずに、再び逃げた。

義足のクノイチはオモイカネと歩幅を合わせ、隊列(LINE)を組み、
不揃いの四列 クアドラプル ~スクナヒコナ~
を発動させ、再び、追い付いた。

観念した涙ボクロの可愛らしいクノイチであったが、義足のクノイチは違和感を持つ。
再度、地面に頭を擦り付けて謝った時
その場に砂の波が押し寄せ、4人は波に巻き込まれ、押し戻された。
涙ボクロの可愛らしいクノイチだけはそれに巻き込まれずに、三たび逃げた。

流石に頭にきた4人。
義足のクノイチは三たび追いかけ、オモイカネの3人は砂の波をクロールで泳いで追いかけた。
その時、3人のクロールがシンクロし、三の隊列(LINE)となり
同期の三列 トリプル ~ミナカタ~
が発動し、三たび、追い付いた。

次は泣いて謝っても許さないと心に決め、涙ボクロの愛くるしいクノイチを取り押さえた。
義足のクノイチが追い付いた時、違和感に気付いた。
最初に追いついた時に見た涙ボクロは右目にあった。
違和感を持ったのは、涙ボクロが左目になっていた事だ。
そして三回目は、また右目になっている。
すると涙ボクロの愛くるしいクノイチが立っている地面が持ち上がり、とてつもない高さの砂の壁となった。
四たび、登って追いかけようとするオモイカネであったが、義足のクノイチはその場から動かずに精神を集中し何かを探し始めると、足元の砂に手を突っ込んだ。

砂の中から現れたのは首根っこを掴まれた涙ボクロの可愛らしいクノイチであった。
涙ボクロは左目になっていた。

双子であった。

愛くるしい片方が逃げ、追い付かれると、可愛らしい片方が邪魔をしては走り去る。
追い付かれた方は後ろから追いかけサポートに回る。
この方法で4人を振り切ろうとしていたのだ。

とてつもない高さの砂の壁は消え、もう片方が現れたが、双子は諦めてはいなかった。
砂漠で育った砂漠の民は諦めない。

遺跡の秘密を知る砂漠の民の双子は隊列を組み、走り出すと隊列(LINE)が発動した。
遊撃の二列 ダブル ~スサノオ~
が発動し、走り去っていった。
この二列のLINEは簡単に見えて発動条件が難しい。
なぜならば、「目的を定めない」2人が行って発動する隊列だからである
走る意味も方向も定めずに組める二列の配列は双子ならではのコンビプレイである。

しかし、されど2人で行う隊列は発動条件が難しくても、4人の隊列には適わない。
隊列(LINE)とは各々の力が掛け算式に跳ね上がる力だからだ。

義足のクノイチと3人のオモイカネは
不揃いの四列 クアドラプル ~スクナヒコナ~
を発動させ、四たび、追いかけた。
どちらも食料がかかっているから必死である。

各々の速さを高めようとした瞬間、一筋の風が4人を追い抜いた。
目にとまったのは、白馬に乗ったクノイチだった。
白馬のクノイチは4人に止まるように命じた。

 

「あ~、ちょっとスピード出し過ぎちゃったね〜」
と違反切符にサインを求められた。

そのクノイチは騎馬民族ガル・バのクノイチであり、
馬社会であるガル・バ内の交通規則を取り締まる官職についた騎馬警備隊の精鋭であった。
最近ガル・バのはぐれ部族の人さらいが多くなり、
イシュターなどの蛮族の子供を、ムシュ・バの過激派に奴隷として売りさばく行為が横行していたため、
国境を越えてガル・バからムシュ・バへと警備に来ていたところ、速度違反の4人を取り締まった。
という事であった。
4人の隊列(LINE)の力とはいえ、馬の速度で、かつ風を支配する白馬の警備官から逃げ切る事は至難の技である。

しかし、オモイカネは演出家から学んだ理論武装により異議申し立てをしたところ
「あ~、双方の見解に相違があるようだね〜、じゃあ今回は口頭注意という事で、切符は切らないけど、速度出し過ぎちゃダメだよ~」
と、白馬の警備官は許してくれた。

しかし、この時間の損失で双子を見失ってしまった事から、逆に4人は訴えたところ
自分の食料を分け与え、涙ボクロの愛くるしいクノイチを補導するために同行してくれたが
逆に少し鬱陶しかった。

警備官は鬱陶しいが、白馬は役に立った。
馬の嗅覚でオアシスの方向が分かるからだ。

5人はオアシスへと向かった。

 

オアシスに着いた時、白馬のクノイチの顔が険しくなった。
ムシュ・バの過激派がオアシスを占領していたためだ。

そして、その過激派の中にいたのは、涙ボクロの双子のクノイチであった。
食料を過激派にさし出すも、量の少なさから暴行を受ける双子。
そして、一人のタジカラヲが双子の可愛らしい方を抱き寄せ、行為に及ぼうとした。
その瞬間、義足のクノイチは飛び出し、タジカラヲを蹴り飛ばし、過激派集団との戦闘が始まった。
だが、大人のタジカラヲの力はすさまじく、白馬のクノイチも劣勢である。
その差は核の力にあった、両手の平を、握手を振り払うかのようにはじくと、核爆発が軌道する。
極めて小規模とはいえその核の力を一斉に発動されては勝ち目が無い。

その時、涙ボクロの双子のクノイチが砂の蟻地獄を発生させた後、5人に立ち位置を指示した。
渦の中心にいる過激派集団を囲むように5人と双子の計7人が正七角形を描いた時、
結界(TERRITORY)となり、七角形 ヘプタゴン ~ミカボシ~
が発動した。

身動きの取れなくなった過激派集団は取り押さえられ、両手が合わさらぬように縛られた。

双子は縛られたタジカラヲの胸元から、半月の首飾りを二つ、取り戻した。
双子はこの首飾りを奪われた事からタジカラヲに逆らえなかったのだ。
半月の二つの首飾りは、ピラミッドの入口を開閉させる鍵であった。

事情を聞いた双子は、助けてもらえた礼として遺跡を案内する事を約束した。

すると、縛られた過激派集団は自害した。
「同胞が必ず報復に現れる」という言葉を残して。

白馬のクノイチは急いでこの場を離れ、ピラミッドへと向かうように命じた。
もはやこの砂漠を生きて脱出するには、オモイカネの秘宝を手ぬ入れねばならない事を悟ったのだ。

そして1日をかけて歩くと、砂煙の中からピラミッドが現れたが
後ろからは過激派集団の本隊が迫ってきていた。

急いで半月の鍵で開閉し、中へと入る7人。
閉じる余裕も無く、過激派集団も中へと侵入した。

遺跡の中には、全ての隊列(LINE)や、結界(TERRITORY)についての情報が書かれていたが、
オモイカネの秘宝は扉の先にある。
そこは遺跡を守る双子でさえも入った事の無い場所であった。

迫りくる過激派集団。

白馬のクノイチと義足のクノイチが足止めとなり
オモイカネの3人と双子を行かせた。

風の力と鉄の力を合わせて戦うも
本気を出したタジカラヲの力の前に屈服させられる二人のクノイチ。
だんだんと服は脱がされ、裸にさせられていく。
そして、両手足を抑えられ、タジカラヲによって凌辱されようとした時、扉は開き
凌辱のために覆いかぶさろうとした二人のタジカラヲは消滅した。

 

何が起こったのか分からない一同。

3人のオモイカネはしゃべり始めた。
「クノイチはラビの力を持っている」
「タジカラヲは強い力を持っている」
「ラビの力も強い力には適わない」
「オモイカネは弱い力を持っている」
「とても弱い力のため、強い力はもちろん、ラビの力にも叶わない」

意味の分からない言動に、タジカラヲの一人が怒鳴ると、そのタジカラヲは消滅した。

「だが、消し去る事はできる」
「質量保存の法則とは無縁ゆえに」

オモイカネは続ける。

「弱い力とは、W粒子とZ粒子の交換である」
「どちらも質量を持たないゲージ粒子だが、ヒッグス粒子がその質量を与えているとも考えられるため、ラヴィの仲間であるともいえる」
「しかし、電荷を持たない中性子」
「弱い力とは電荷を持たないレプトンである」
「従って、そのレプトンは、人はおろか、この大地すらも貫通する」
「よって、引き起こせるのはベータ崩壊」

何を言っているのか分からない中
オモイカネは分かりやすく言った。

「人体を貫通する放射線を出し、体内の腫瘍に直接攻撃できる」
「それがオモイカネの治癒の正体」
「正体が分かれば、あとはその照準の合わせ方一つで病魔を倒せる」

タジカラヲはしびれをきらし、「いいから財宝を出せ」と怒鳴ると

「これが手に入れた財宝の一つ」
「もう一つが、原子核崩壊」
「つまり、人体の崩壊」
「原子核を散らすだけ、よって、何も残らない」
「ゆえに消し去る事ができる」

そうしてその場にいたタジカラヲは、音もなく、跡形もなく、全て消滅した。

 

白馬のクノイチはつぶやいた。
「これがオモイカネの秘宝・・・なら、あのタジカラヲとされたイシュターは、やはりオモイカネだったのか・・・
核の力を使ったわけではなかった・・・あの裁判は・・・やはり間違っていた・・・」

白馬のクノイチは、かつて禁断の核の力を使ったとされ裁判にかけられたイシュターのオモイカネを最初に発見し、保護したガル・バのクノイチだった。

その場にいたはぐれ部族のタジカラヲが消滅していたという自らの証言が核の力と決めつけられたが、
「核以外の別の力かもしれない、なぜならば、岩場には核熱によって溶けた痕跡が無かったからだ」
と最後まで反論していたのだ。

自らの性別が他人の意思によって変えられる、
これ以上の不法行為があるだろうか。
不変の人権とは「性別選択の自由」である。

それを守ってあげられなかった白馬のオモイカネは
あと少し、早くに着いていれば、消滅の瞬間を目撃できれば、
あのイシュターのオモイカネの人権を守る事が出来たのだ。
自分の無力さを痛感した白馬のクノイチは、誰よりも早く駆け付けられるよう、乗馬の技術を磨いていたのだ。

自分にはすべき事がある。

白馬のクノイチは、脱がされた服を着る中、警備官の上着はその場に置いた。
官職を大地に返し、一人の人間として3人のオモイカネと同行する事を決めたのだ。

一同は遺跡を後にし、アッカステップへと向かった。