第10章 エア王国  〜3節 不平等条約〜

これまでの貨幣の価値を覆す方法で自国を発展させたエア王国であったが、
その貨幣政策はあくまで自国内だからこそできる事であり、他国との交易となれば話は別だ。
実際に存在しない金で交易はできないし、自給自足のみでエア王国は成り立つわけではない。
特に食料は輸入に頼らなければ国民は飢え死にしてしまう。

そこでエア王国は周辺国に、脅しとも取れる不平等な同盟を持ちかけた。
まず北部のエンリ帝国には火力産業技術を提供する代わりに、造船技術の提供と国境水域の拡大を要求した。
これによりエア王国は漁業権を獲得した。
脅しの材料は、産業汚水を海に流す事であった。

次に、南部の鍛冶一族ギル・ガへの脅しの材料は
ティアマー連峰を源流としエア王国を通ってギル・ガへと流れる川を灌漑し、エア王国側へと大きく引く事である。
これによりギル・ガは水不足に悩まされる事になるのは明らかであり、
武器や鉄鉱石を安く買い叩かれる事になる不平等条約を結ばざるを得なかった。

しかし、何故エア王国はここまで強気な交渉に出られたのであろうか。

エンリ帝国に核の力は無いが、ギル・ガは核を有する鉱山の街で、エア王国に引けを取らない武力を有している。
エア王国は知っていたのだ。
エンリ帝国より北には中立の満月島があり、その島の地下にはシェルターが存在する事を。
この大地が核の火柱を上げた時、
満月島は海賊イシュターとエンリ帝国の人々を非難させられる規模の核シェルターを作り上げていた事を。

エア王国の王族は、いざとなればエンリ帝国を飲み込み満月島をも手中に収める事を目論んでいたのだ。

戦争とは政治の問題であり、外交手段の一つである。
同盟、協定、協約、制裁、様々な外交手段の一つに、
戦争という方法があるのに過ぎないのだ。

エア王国は、国民を含め人権を主張はするが、結局は自国が助かれば他国が滅びようとも構わないのだ。