第5章 番人 マル・ドゥー

この大地の最北端にそびえるティアマー連峰。
その頂を超えた先には未来へ続くとされる橋がある。
その橋を歩いた先には門があり、その門をくぐり辿り着くのはアプス山脈である。
アプス山脈に着いた頃にはその旅人は時間を超えて未来の世界にいるのだ。

しかし、その道を行くのは容易ではない。
氷の力によって力と意思が試されるのだ。
その氷の力によって旅人を試すのが、氷を支配しティアマー連峰を見張る番人 マル・ドゥーである。
マル・ドゥーに許された者しかその橋を渡る事ができないのだ。
仮にタジカラヲやクノイチの力を使って強引に渡ったとしても時間は超えられず、未来には続かない。
そして、その橋の番人となる者の時代において、必ず一人、未来へ渡ろうとする旅人が現れる。

この時代に現れた旅人はオモイカネ。

かつて海賊イシュターに生まれたクノイチであったが、自身がオモイカネであるという自覚はなかった。
生きていく中でクノイチであると思っていた者が実はオモイカネであったという事はよくある事なので、
海賊イシュターではそのような確認はいちいちしない。
する事自体が非礼であり無礼な行為であるからだ。
本人がそうならそうなのであり、言いたければ言えばよいし、言いたくないのなら言わなくてよい。
ただそれだけの事である。

ここまでの話で、オモイカネとは何者なのか?
子供を産めるのか?作るのか?髭は生えているのかいないのか?胸は膨らんでいるのかいないのか?
と疑問に思う者もいるであろう事からここに答えを記す。
答えは、全て、である。

産める者もいるし、作る者もいる、産まない者もいれば作りたくない者もいる。
髭が生えた者もいるし、生やしたいのに生えてこない者もいれば、生やすのが嫌で剃る者もいる。
胸が膨らんでいる者もいれば、膨らんでいない者、膨らんでいないために膨らませたい者
膨らんでいるのに無くしたい者もいる。
他にも沢山ある。
よってオモイカネとは、全てである。

それが全てなのだが、それでも理解ができないのであれば仕方がない。
相手がオモイカネであるかどうかの確認は不要であるのと同様に、
理解できない者に理解を求める事も不要である。
文字が理解できない者はこの戦記を読む事ができないのと同様に、
オモイカネを理解できない者はオモイカネの物語を理解する事はできないのだから。
この物語を執筆している者も、理解など最初から求めてはいない。
その宇宙でおこった出来事を記している、ただそれだけの事だ。

この宇宙にある大地には未来へと渡る橋の番人 マル・ドゥーという部族がいる。

その橋の番人となる者の時代において、必ず一人、未来へ渡ろうとする旅人が現れる。
そして、もう一人、橋を渡って来た者も現れる。
橋を渡ろうとする者を見張り、橋を渡って来た者を通す役目を持っている。
それが氷を支配しティアマー連峰を見張る番人 マル・ドゥーなのだ。
この時代に現れた旅人、オモイカネは未来へ渡るためマル・ドゥーにその意思を試された。