第22章 遊侠、そして総指揮官、遊元帥

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海賊イシュターの長を遊侠(ゆうきょう)と呼ぶ。

「遊」という文字は、「目的を定めない」行為を言う。
従って「遊ぶ」とは「仕事をせずに怠けている」という意味ではない。

ゆえに「公園でかくれんぼをして遊んできます。夕方までには帰ります」というのは遊びではない。
場所も時間も目的もはっきりしているので、それは遊びではないのだ。

「あの人は遊びに行ったので、どこに行ったのか、何をしているのか、いつ帰って来るのか分からない」
が、遊んでいる者の定義である。

よって、イシュターの長である遊侠(ゆうきょう)は、
縄張りであるラハブ諸島の何処にいるのか、何をしているのか、誰にも分からない。
いつも遊んでいるのである。

しかし、有事の際はその姿を現し、仁義を持って強きをくじき弱きを助ける者。
それがイシュターをまとめあげる長、遊侠なのである。

その遊侠を決める儀式は4年に1度行われる。

4年に1度、ラハブ諸島の海域では疑似誘拐が行われ、日時は明確には知らされない。
クノイチ、オモイカネ問わず、その疑似誘拐を受け入れた者は各島に一人ずつ人質として閉じ込められ、
その島には人質がいる印として武装した番人が置かれる。
そしてその時に海域内にいる者は、民族、クノイチ、オモイカネ問わず、人質救出の義務が発生する。
拒否=腰抜け
とみなされ、いじめにならない程度に4年間、下っ端として雑用をさせられるのだ。
(他民族であれば通行料を徴収されて帰される)

この疑似誘拐でより多くの人質を救い出し、番人を納得させた者がイシュターの遊侠となるのであった。
もちろんそれを受け入れるも受け入れないもその勝者の自由である。
なぜならば、いつも自由に遊んでいて、有事に際には仁義を持って強きをくじき、弱きを助ける守る者がこの海にいるのだから。
イシュターの精神はそれだけで支えられ、皆はまとまるのである。

 

そんな4年に1度の時期とは知らずにラハブ諸島の海域に入った者達がいた。

チャラいカネ
王族のクノイチ
演奏の得意なオモイカネ
涙ボクロの愛くるしいクノイチ

の4人である

4人はエア王国から「借りた船」でネル・ガを南下し、レインボーラインへとやってきた。
このまま南下をおこない目指すはエンリ帝国である。

食料確保のために近隣の島に停泊し、その日はそこでキャンプをする事となった。

食事を取り、皆が後片付けをする中、チャラいカネは手伝わなかった。
「僕は今日、誕生日なんだ、エンリ帝国では誕生の日は自分がして欲しい事を言ってもいいんだ。
けれども僕は何も要らない、その代わりに何もしない、今日くらいは自由に過ごす」

というと、演奏の得意なオモイカネは
「いや、いつも自由だろ、君は」
と突っ込んだ。

「物をもらうだけの誕生日よりもそっちの方が楽しそうね」
と、王族のクノイチは笑った。

すると、涙ボクロの愛くるしいクノイチは演奏の得意なオモイカネにこう言った。
「珊瑚でいいからね」
「え?」
「だから珊瑚でいいからねって言ってるの。知ってるでしょ?私の誕生日」

演奏の得意なオモイカネは言った。
「・・・覚えてないよ、僕は自分の誕生日に興味が無いんだ、だから人の誕生日にも興味がない」

「バカー!!!!!!!!!!!!」
と涙ボクロの愛くるしいクノイチはブチ切れて砂をぶちかまし、走り去って行った。

「追いかけないのかい?」
とチャラいカネは聞いたが

「いつもの事だよ、すぐに帰ってくるさ」
と演奏の得意なオモイカネは言った。

チャラいカネは言った。
「・・・ふーん・・・」と。

そして、次の瞬間、打楽器の音が鳴り響き、周囲にはイシュターが現れた。

今、この瞬間から4年に1度のイシュターの長を決める遊侠の儀が始まったのだ。

囲まれた3人は人質側になるか救出側になるかを選択させられたので、
拘束を避けるために救出側になる事を選んだ。
そして人質側が確定するまでその場を動かないように告げられた。

島々ではイシュターの打楽器が鳴り響いていた。
イシュターは演奏を通して離れた島々でも会話ができるのだ。

誰が人質になり、どこに配置されるのか、その伝達をしているのだった。

その音は夜が明けるまで鳴り響いた。

 

朝になり
「帰って来なかったね、どうやらかくれんぼがお好きなようだ」
とチャラいカネが言うと
イシュターがこれより遊侠の儀を開始すると告げた。
人質となった者の特徴を伝えていく中に、涙ボクロの愛くるしいクノイチの存在があった。

「何やってんだあいつ!」

涙ボクロの愛くるしいクノイチは自ら人質を選択したようだ。

救出側には小型の縦帆船が与えられ、遊侠の儀は開始された。

チャラいカネは王女のクノイチに、ここで待つように告げた後、
踊りの得意なオモイカネと二人で涙ボクロの愛くるしいクノイチを迎えに行くと伝えた。

そして、船の上で、踊りの得意なオモイカネに伝えた。
「そうそう、暗黙の了解だったのかイシュターは言い忘れていたね、
助け出された人質は、救出者に愛を求められたら拒否できないんだ。急げというのなら急ぐけど、どうする?」

演奏の得意なオモイカネは
「君は本当に性格が悪いな」と言った後に
「急いでくれ」と小声でつぶやいた。

遊侠の儀、涙ボクロの愛くるしいクノイチが捕まっている島へ向かうと
なぜかその島に向かう者達が多数いた。

「あいつら考えたな、他部族を先に救い出したとなれば、イシュターの長としての株も上がり信頼を得られるだろう」

チャラいカネは神テクでどんどんライバルを追い抜き、すれ違い様に相手の船に乗り込み気絶させていく。

そして、涙ボクロの愛くるしいクノイチが捕まる島に着いた時、チャラいカネは言った。
「さて、僕は十分に働いたから休ませてもらうよ、あとは自分で何とかしな」

演奏の得意なオモイカネは1人で番人と戦う事となった。

よくよく考えれば、一対一の戦いは初めてである。

しかも浜辺。

演奏の得意なオモイカネは、ボッコボコにされた。
それを見つめる涙ボクロの愛くるしいクノイチは叫んだ。
「やれやれー!ぶっ殺せー!」

チャラいカネは呟いた。
「同情するよ・・・」

番人が最後の一発を食らわせようとした時、演奏の得意なオモイカネはカウンターを入れ、番人は倒れた。

「殴られてやったんだよ、懺悔みたいなものさ」
と演奏の得意なオモイカネは言った。

チャラいカネは呟いた。
「半分以上マジでやられてたと思うけど・・・」

そして、下を指刺し、こう言った。
「それ、拾わなくていいの?」

演奏の得意なオモイカネがそれを拾った瞬間、チャラいカネは攻撃を仕掛けた。

「ごめんね、やっぱり気が変わった、こんなチャンス二度となさそうだから立候補するね、
あの子の事、前から好きだったけど君を立てて我慢してたんだよ」

こうして演奏の得意なオモイカネとチャラいカネの戦いが始まった。

その間、ゆっくりとやってきた王族のクノイチは、涙ボクロの愛くるしいクノイチに聞いた。
「ねえ、どっちに勝ってほしい?」

涙ボクロの愛くるしいクノイチは答えた。
「別にどっちでもいいけど・・・・・・まあ、しいて言うなら・・・・・根性のある方かな」

「言ってあげたらいいんじゃない?」

「言わないからいいんじゃない」

「不器用な人達ばかりね」
と王族のクノイチは笑った。

 

二人の戦いは苛烈化するも、チャラいカネは腐っても帝国艦隊の精鋭で戦闘術にも優れている。
先の戦いで番人にボッコボコにされた演奏の得意なオモイカネは息を切らしボロボロである。

チャラいカネは
「もう一度教えるね、助け出された人質は愛を求められたら拒否できないんだ。
据え膳食わぬはオモイカネの恥!僕は助けた人質はその場で抱く!」

と言い、大きく振りかぶり真正面から向かってきた。

その攻撃は余裕の大振り過ぎて、隙だらけだった。
演奏の得意なオモイカネはカウンターを入れた。

「僕・・・攻める人だから・・・守りは弱いんだよね・・・」
と言い、チャラいカネは倒れた。

ボッコボコでボロボロの演奏の得意なオモイカネは砂場をゆっくりと歩き、
涙ボクロの愛くるしいクノイチの前に立ち、こう言った。
「・・・みーつけた・・・」

涙ボクロの愛くるしいクノイチは言った。
「根性あるじゃん・・・じゃあ次は私が鬼ね!」

と、不器用に立ち上がると、演奏の得意なオモイカネは手を握り
「今日だろ・・・誕生日・・・」
と言って、先ほど拾った珊瑚を手渡した。

涙ボクロの愛くるしいクノイチはそれを胸に抱いた時
演奏の得意なオモイカネはクノイチの胸元へと崩れ落ちた。
下敷きになった涙ボクロの愛くるしいクノイチは
「ちょっと、重いんだけど、早く隠れに行けよ」
と言ったが演奏の得意なオモイカネはボッコボコのボロボロで気を失っていた。

「ま、いいか」
と、そのまま眠る演奏の得意なオモイカネの頭を撫で砂を払った。
その顔は少し嬉しそうだった。

するとチャラいカネは起き上がり
「んじゃ、ちょっと行ってくるからそのまま休んでいなよ」

といい、人質救出のために次の島へと向かった。

 

チャラいカネの特技、それは船を操る神テクである。
イシュターの船でも自在に操り、次々とライバルを追い抜いた。

チャラいカネの十八番、それはラヴィを使った高速移動の立ち技の体術である。
立ちふさがる番人との間合いをあっという間に詰めて動きを封じた。

チャラいカネの奥義、それはラヴィを使った舌と指の神テクである。
間合いを詰めた番人の唇をふさぎ、舌を流星のように走らせると番人は膝から震。え、立っていられる状態ではなくなった

チャラいカネの秘儀、それは巧みな寝技の体術である。
人質を助けだした後は、ひっくり返して上になったり下になったりして抑え込み、愛を求め、人質はそれを受け入れた。

それを延々と繰り返してイシュターの島々に散らばる人質を救出していったのである。

チャラいカネは次の島へと向かう中、虹色に輝く海に向かって叫んだ。

「遊侠の儀サイコー!4年と言わず毎年やってくれー!」

こうしてチャラいカネはイシュターの人質どころか番人すらも手玉に取り、
イシュターはチャラいカネを遊侠として認めた。

チャラいカネはもちろんそれを断り、4人でエンリ帝国へと向かったが、
イシュターの精鋭達は「遊侠に着いて行く」といい、チャラいカネの傍には常にイシュターの護衛が付き従った。

それを見た玉は
「えっと、エンリ帝国艦隊、君に任せるんでシクヨロ」
といい、指揮権をチャラいカネに渡した。

こうしてチャラいカネはエンリ帝国艦隊とイシュターの総指揮官
『遊元帥(ゆうげんすい)』となったのである。