第18章 ガーディアン キン・ドゥー

桃源郷を入ってきた場所から出なかった踊りの得意なオモイカネと涙ボクロの愛くるしいクノイチは、
鍛冶師を訪ねてやってきたガーディアンのクノイチを追ってアプス山脈へとやってきた。

だがある時、強烈な眠気に襲われ、二人は倒れた。

目覚めると二人は顔を包帯でグルグル巻きにされていた。

「それがこの地にいるための出で立ちだ」
と、顔を包帯で巻いたガーディアンのクノイチは語った。

「我々はガスを支配する一族、アプス山脈のガーディアン、キン・ドゥー。
この地には遥かなる過去から旅する者がやってくる。
ティアマー連峰の番人マル・ドゥーが許せし旅人は、何人にも自身の事を聞かれてはならない定め、
ガーディアンを含め、この地にいる者は過去からの旅人に出逢う事がある。
その者が知り合いとも限らん。
よって余計な事は言わぬ、聞かぬ、知らぬの証しとしてこの出で立ちをしている。
この地にいる以上は我慢してもらおう」

踊りの得意なオモイカネは先ほどの鍛冶師への用について尋ねた。

すると、
「ああ、何年前もに桃源郷にいたやつか、今更なんの用だ?」
とガーディアンは答えた。

あの桃源郷から出た時、自分達だけは過ごした以上の時間が経っていたのだ。
「桃源郷は自分は入った場所から出ねば、元の時間には戻れぬ場所、早くその場所に戻るがいい」

踊りの得意なオモイカネは
「師匠に用があったという事は、鍛冶師に用があったという事ですよね?
弟子の私にできる事があるならばお役に立てればと」
と言い、自身の打った「人を切らぬ剣」を見せた。

「このような剣はこの時代には役に立たない、早く桃源郷に戻るがいい」
と、ガーディアンは答え、展望台へと連れていき、この世界を見せた。
その世界は荒れ果てた大地と化していた。

ティアマー連峰から流れ、エア王国を通りギル・ガへと行き着き出来上がる美しい塩湖であるナンム海(かい)が干からびていた。

「エア王国が自国産業のために灌漑をした結果、ナンム海への注水量が減り、干からびた。
それによって起こるのは漁獲量の現象だけではない。
海が無くなった事で雨が降らなくなり植物は枯れ農作物は全滅。
さらに砂漠化した大地は大量の塩を含んだ砂嵐を巻き起こし、ギル・ガの街は病気が蔓延し、滅びた」
とガーディアンは言った

「なぜエア王国は条約を破り、灌漑をおこなったのか?」
と聞くと

「数年前、エア王国の王族のクノイチが誘拐された、
その4人の誘拐犯の中にギル・ガの出身者がいた事による報復だ。」

「とんでもない奴らだ!どんな奴らがそんな大それた事を?」
と涙ボクロの可愛らしいクノイチがいきり立つと、ガーディアンは答えた。

「エンリ帝国のチャラいオモイカネ、元エア王国の軍人クノイチ、
謝罪を奏でるオモイカネ、そして、砂をかける涙ボクロのクノイチ」

「・・・」
二人は絶句した。

「まあ・・・何か、あったんだろうね・・・やむを得ない、何かが・・・」
「砂をかける、のキャッチフレーズでなんか想像できた、ごめんね」

と、二人はなんとなく事情を察した。

「問題なのは、元エア王国の軍人のクノイチだ、その親はエア王国の国籍を捨て、ギル・ガの民となった。
そして子供もエア王国の王族を誘拐し国籍を捨てた事から、その眼はギル・ガに向けられた」

「そんな理由で・・・」

「エア王国にとって理由はなんでもよかったのだ。
目的はこの核の力でにらみ合った世界の覇権を握る事なのだから。
そして、この大地の人々が作り上げた共通の意思を変えるには一度核の力で壊さねばならないと、判断したのだ。
派遣を握れば良し、核によって世界が混乱、混沌に落ちればなお良し」

「なぜ壊す必要がある?」

「報道の偏向によって操作され、作り上げられた人々の意思、人権という名の理不尽な矛盾。
国の未来は子供にあらず、老人達の政治投票による過半数で作られた老人主体の法律」

「エンリ帝国の、イシュターの、中立地満月島の、オモイカネの、
7権分立であれば、それぞれがそれぞれの自由を尊重、配慮できる法にすれば・・・」

「その法がその他の民族にとって正しいとは限らない。
正しいとしても変えるためには今の政治投票の仕組みでは不可能だ。
破壊し、そのどさくさに紛れて改正し、作り直す。戦争とはそういうものだ。
そしてエア王国の王族と富裕層は現在、満月島の地下シェルターで過ごしている」

「他のレインボーラインの人々は?」

「入れなかった」

「バカな・・・」

「正しくは入らなかった、産業排水を流さぬ事を条件にシェルターを明け渡した。
満月島の長、在煌(ざいこう)陛下は待遇を拒否した」

「当然だ!
イシュターとの対立を哀しんだ当時のエンリ帝国の帝が中立に立たれ満月島に移り住み、在煌(ざいこう)となられたのだ。
レインボーラインの秩序は在煌(ざいこう)陛下の思慮によって成り立っているといっても過言ではない。
在煌(ざいこう)陛下が入らぬシェルターに入りたい者などレインボーラインにいるものか」

「そこまで計算してのかもしれないな、エア王国の王族は。
だが、計算しきれなかった事もる」

ガーディアンが指差す方向には、『下弦の三日月型』の砂漠があった。

「まさか・・・」
涙ボクロの可愛らしいクノイチが呟くと

「ユーフ砂漠はあの形となった。
ナンム海が干からびてから、過激派のタジカラヲが結託し遺跡の入口を取り囲み、
一斉に核の力で破壊し、侵入を試みた。
遺跡を守るためにムシュ・バの長は核の力を使い、砂漠そのものを消した。
遺跡も、ムシュ・バの民も、過激派もこの世界から姿を消した。
なぜそこまでして遺跡を守る必要があったのかは誰にも分からない」

「・・・・・・・・・・」

「お前達は何か知っているようだな、だが、ここではその包帯の仮面の定めに従うがいい」

「・・・・・遊牧民 アル・ルは・・・・・?」

「爆発に巻き込まれ、砂漠と共に消えた。
そして砂漠という大地の生命維持装置を失っては、もうこの大地に栄養は運ばれない、
植物は育たず、レインボーラインにも枯れた水しか流れない。このまま全て滅びくのだ」

言葉を無くし、佇む二人。

「言っただろう。ここはそのような剣など役に立たないと。早く桃源郷へと帰るがいい」

そこへ、大きなラヴィの力が流れてきた。

 

ガーディアンは言った。
「過去から来た者がここへ戻ってくる、この世界を見聞きし、戻って来るようだ。
包帯の仮面に定めに従わねば・・・その者の命は消える。」

そこへ、とてつもない速さで現れたのは、義足のクノイチであった。
以前よりも強さと輝きを増した義足のクノイチは、過去からこの滅びゆく未来へとやってきたのだ。
「見たい物は見れたか?ならば早く戻るがいい」とガーディアンが言うと
義足のクノイチは言った。

「帰る。でも、そのためには、あなたも一緒に来て欲しい。
過去の私たちの知識と力だけじゃ未来は変えられない」

「断る。キン・ドゥーには使命がある。
この滅びゆく時代でも過去からの使者がいる以上、そしてここから過去へと行く者を監視せねばならない。
無法に過去へと渡る者を通さぬのもキン・ドゥーの役目」

その瞬間、アプス山脈で核爆発が起こり展望台が震えた。

「その無法者が現れたようだ」
とキン・ドゥーは過去へと渡る者を排除するために向かった。
無法者のタジカラヲが群がる中ガスの力で眠らせようとしたが、
タジカラヲ達はガスを防ぐ仮面をしており、その力が通じなかった。

無法者のタジカラヲ達はガーディアンを捉え、過去へ行かせるように要求した。
断るのであればこの門ごと破壊して無理やり進むだけだと脅した。

「ガーディアンの許可なく通ったところで過去へは行けない、行ったところで同じ時代の上下を巡るだけだ」
と伝えると、タジカラヲは怒りガーディアンの包帯をかきむしりその素顔が晒された。
ガスと包帯の容姿とはうらはらにとても整った顔立ちだった。

ならその使命とやらがどこまで持つか試してやろうと言わんばかりにタジカラヲはそのまま服を脱がし始めた。
飛び出すように飛び蹴りで割って入る義足のクノイチ。
戦いが始まるなか、踊りの得意なオモイカネは迷った。

オモイカネの秘宝を使えばタジカラヲは消滅させられる。
しかし、その行動=オモイカネの秘宝を知る者であると言っているのも同然だ。
行動も言動とみなされ義足のクノイチの命が消えるのなら、オモイカネの秘宝は使えない。
しかし、秘宝を使わずに核の力に勝てるはずもない。
その迷いを吹っ切ったのは、タジカラヲの行動だった。

 

岸壁にて取り押さえられたガーディアンは言う
「この身の何を奪おうとも、この大地に生きる者の尊厳までは奪えない。わたしは使命を最後まで全うする」

するとタジカラヲは
「立派な職人(しょくにん)気質(かたぎ)だなあ」
と笑った後、大地に、崖に、海に、唾を吐き捨てた。

踊りの得意なオモイカネは剣を抜き、唾を吐いたタジカラヲの首を真っ二つに切り落とした。

「どうやらこの剣はお前らを人ではないと判断したようだ。
職人は芸術家より優しくないって事を教えてやる。
お前たちは墓を汚した、墓に唾を吐いた罪、万死に値する」
オモイカネは舞うように踊るようにタジカラヲを切り裂いてゆく。

ガーディアンは耳元で聞いた。
「早く桃源郷へ戻れ、いつまでも繋がっているわけじゃない、帰れなくなるぞ」

オモイカネは
「断る。職人(しょくにん)気質(かたぎ)ってのは頑固で気難しいんだ。
戻るのはこいつらを倒して、あんたが義足のクノイチと共に過去に戻るのを見届けてからだ」

と言った後、再び舞い、残るは一人のみとなった時
タジカラヲは自爆した。

涙ボクロの可愛らしいクノイチは砂の壁でオモイカネを守ったが
爆風によりガーディンと義足のクノイチは垂直の崖へと吹き飛ばされた。
谷底へ落ちるガーディアンの手を、義足のクノイチが握り、支えた。

今にも手が離れ落ちそうな中
「このままではお前も落ちる、早く過去に戻れ、ここは滅びく時代、見捨てて構わない」
と、ガーディアンは言ったが、その言葉が義足のクノイチの心を揺さぶった。
言葉を発する度に、涙が溢れた。

「えっとね、私ね、走る事しかできないんだけどね、
でもね、もうね、走れなくなっちゃうかもしれなかったんだけどね、友達がね、私をね、見捨てなかったの、
鍛冶師さんもね、見捨てなかったの。
そしたらまた走れるようになってね、次は、砂漠で死んじゃうかもって時もね、3人の友達がね、見捨てなかったの、
双子ちゃんもね、見捨てずに、一生懸命だったの。
そしてね、私の、みんなの大切な先生もね、病気の子をね、見捨てずにね、その子を救ったの。
みんなね、見捨てなかったんだよ、だからね、私はね、絶対に見捨てないよ」

義足のクノイチは泣きながらガーディアンを助け上げた。

「こんな泣き虫に助けられるとはなあ・・・・・」
空を見上げて呟くと

「それに、こんなところから落ちちゃったら、ゆっくり眠れないよ」
と、義足のクノイチはにっこり笑った。

岸壁の向こう側のオモイカネとクノイチは手を振り去って行った。

「墓・・・か・・・この時代を見捨てなければ・・・それは使命に繋がるのかもしれないな」
そうガーディアンが呟くと

「一緒に来てくれるの?」
義足のクノイチが喜んで尋ねた。

ガーディアンは言った。
「お前のような泣き虫がここであった事を明確に伝えられるとは思えないからな」
と、かすかに笑った。

 

踊りの得意なオモイカネと涙ボクロの可愛らしいクノイチは、桃源郷へと走った。
もう時間が無いかもしれない中、桃源郷で覚えた、岸壁の二足歩行で近道を繰り返し、
元来た場所へ付くと次元の狭間が閉じかかっていた。

二人は手を握り、懸命に飛び込んだ後、次元の狭間は閉じた。

「あ~、おかえり〜、戻ってきたんだね~」
と、しいな~の人が出迎えた。

二人はお礼を言った。
「二足歩行、メッチャ助かりました!」

しいな~の人は言った。
「それは素晴らしいなあ~」