第16章 豪華客船

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エンリ帝国とエア王国の同盟により、エア王国で製造された客船がある。
エア王国の港を出発し、満月島を周回する旅だ。
その客船の航海士として選ばれたエンリ帝国のオモイカネがいた。
そのオモイカネは武術に優れ、船乗りとしての腕が立つ帝国艦隊の精鋭である。
しかし、欠点というか、周囲を多少困らせる一面もあった。
遊びが大好きで、特にクノイチと一緒に遊ぶのを好み、二人っきりの夜を演出する能力にも長けるが、
見る度に隣にいるクノイチが変わるのである。
つまり、チャラいのであった。

そのチャラいオモイカネは志願してこの豪華客船の航海士となった。
理由はお分かりであろうか。
戦船ではない客船であれば軍人ではない沢山の可愛いクノイチと遊べると思ったからである。
チャラいオモイカネの考えそうな事だ。

 

客船が出向する前に、このチャラいオモイカネの所行を紹介しよう。

まず、荷積みの段階で食材を搬入するクノイチに「手伝うよ」と声をかけ、倉庫でそのままイチャイチャ。
次に、港から客船を眺めに来た一般人のクノイチに「案内してあげるよ」と声をかけ、
船内を案内する流れで自分の部屋へと案内し、イチャイチャ。
相手は初めてだったようなので優しく教えてあげた。
世界初、豪華客船の処女航海前になんて奴だ。
そして、出港式の最中に食堂のウェイトレスに「君を注文したい」と声をかけトイレでイチャイチャ。

これでこのチャラいオモイカネのチャラさというかクズっぷりがお分かり頂けただろうか。

 

そして船は出航し、次に目を付けたのは防衛班として乗船していたエア王国の軍人のクノイチであった。
声をかけたが冷たくあしらわれてしまった。
しかし、チャラいオモイカネは「クールな子もいいね」と諦めず、余計に火が付いたが、
しつこさに怒ったクールなクノイチは、火の力で撃退した。
(エア王国のクノイチは炎を支配する)
そしてそのシーンをウェイトレスに目撃されてしまった事から、
チャラいオモイカネの噂が広まりプチ炎上した。

出航から数日経つと、周囲はチャラいオモイカネを見ると警戒するようになった。
渋々仕事に戻った深夜、自船の位置を把握するために星を観測していると、
身なりの整ったクノイチが甲板に立ち、不審な動きを見せた。
飛び込み自殺であると確信したチャラいオモイカネはそれを止めた。
理由を聞くと、そのクノイチはエア王国の王族であり、
今回の船旅は無理やり政略結婚をさせられるためのお見合いの場であった事を伝えた。
それが嫌になり自殺を図ろうとしたというのだ。
チャラいオモイカネは世界の広さを見せようと、船首へと連れて行った。
もうすぐ明方である。
日の入りと共に世界に光が差し込む。
チャラいオモイカネは王族のクノイチの後ろに立ち、支え、クノイチは手を大きく広げた時、
クノイチは「私、飛んでるわ!」と叫んだ。

チャラいオモイカネは
「好きな事をやればいい、自由に表現すればいい、
それが例え誰かの真似であろうと、やりたい事をやればいい。人生も最初は誰かの真似でいい」

と伝えると

王族のクノイチは
「でも、誰かの真似をしてるだけじゃ、その形に従っているだけなら不自由な人生と変わらない、
自由な自己表現にはならない」

と言った。

チャラいオモイカネは続けた。
「ならそこからアレンジすればいい、
好きな形をコピーして、そこからアレンジを加えていけばいつかオリジナルが生まれる。
オリジナルとはどこにも無い奇抜な発想の事じゃない。
オリジナルはコピーとアレンジによって生まれて行くんだ」

と伝えた。

この言葉は、10歳の時、中立地である満月島で修習生だった頃、
芸術の授業の時に先生が言ってくれた言葉である。
昼寝を好み、
「好きな時に寝れるようになれば芸術家の仲間入りだ、
なぜならば世界で一番自由なのは芸術家なのだから、自由の無い芸術は芸術家の仕事じゃない」
と言っていた先生。
その後、その先生は世界を見る旅に出た。
それ以来会っていないが、今もどこかでオリジナルを生み出しているのだろう、と語った。

王族のクノイチが
「わたしもいつか会ってみたい」と言うと

チャラいオモイカネは
「一緒に行こう」と言った。

王族のクノイチは
「なら私を抱いてください、そうすれば、私の体はお嫁に行ける身体じゃなくなるもの」

するとチャラいオモイカネは頬に口づけをし
「予約させてもらったよ」と言い、こう伝えた。
「そんな事で手に入れた自由は本当の自由じゃない、
不自由を押し付ける奴の顔にコップの水をぶっかけて、うるせえバカ野郎!
って言えた時、君は自由になれる。」

と言った時
エア王国の軍人であるクールなクノイチが現れた。
クールなクノイチは、王族のクノイチの護衛だったのだ。

 

王族のクノイチの言葉に耳を貸さずに、チャラいオモイカネに攻撃を仕掛けるクールなクノイチ。
それはまるで、王族から目を離した失態の八つ当たりを、
チャラいオモイカネにしているかのごとく執拗であった。
「二度と近づかなければ許してやる」
とクールなクノイチが言い、王族のクノイチは諦めたかのように俯くと、
チャラいオモイカネは
「それはできない」と答えた。

「分かったと言うだけで良しとする、
こちらも後には引けない以上、言うだけでいい、
お前の得意の嘘でも構わないと言ってるんだ」
と言うと、チャラいオモイカネはこう言った。

「僕はよく冗談も言うし嘘も付くけど、絶対にしないと決めている事がある、
それは、自分の言った事が嘘になってしまう事だ。
どれだけ嘘はついても、本心で言った言葉が嘘になるような事だけは絶対にしない」と。

援軍が駆け付け、王族誘拐の容疑でチャラいオモイカネは拘束され、
王族のクノイチの警護もより厳重なものとなった。
エア王国の船内はエア王国の法律が適用されるため、
チャラいオモイカネはエア王国の港に着き次第、処刑となる。

 

その後航海は無事に進み、中継地の満月島に着くと王族は何やら会合を行い、
出向時は満月島から何人かのオモイカネやクノイチが乗船し、船はエア王国へと向かった。

その日の夜、船内から美しい楽器の音色が流れた。
どうやら演奏者のオモイカネが奏でているようだ。
演奏者のオモイカネは涙ボクロが印象的なクノイチと二人で旅をしており、
レインボーラインを通ってエア王国へと向こう途中、満月島にいたところ
演奏の要望があり乗船したのだった。
演奏の要望をしたのは王族のクノイチ。
厳重な警護で不自由な身である事から、せめて音楽だけでも聴きたいとの事で、依頼を受けたのだった。

船内に響く調べは美しくも哀しい歌、拘束されている部屋からわずかに聴きとれた歌詞は
「季節愛し眠る人」
とあり、チャラいオモイカネは先生の事を思い出していた。

そして、深夜、急に船内は慌ただしくなり目が覚めた。
船員達が騒いでいる。

それは、このまま進めば数分後には氷山に激突するというものだった。

パニックが起こる中、演奏の音が近づいて来る。
チャラいオモイカネは演奏するオモイカネを呼び止めた。
「こんな時に演奏してるのか?」と聞くと
演奏するオモイカネは前を見つめたまま
「こんな時だから演奏している、このまま船は氷山に衝突し沈没する。
その時に、せめて騒ぎを鎮めるために奏でねばならない、これから甲板に向かうところさ」
との事だった。

「そんな事よりもそこの涙ボクロの愛くるしい恋人と一緒に避難すればいいだろう?」と返すと

「恋人じゃねーし」と涙ボクロの愛くるしいクノイチは砂をぶちまけた。

演奏者のオモイカネは目を見て答えた。
「芸術のためなら何を犠牲にしてもいい、それが例え人であってもだ。
だが、その芸術で人を救えるのなら何を犠牲にしてでもその芸術は最後まで遂行する。
それが芸術家というものだ」

チャラいオモイカネは言った
「なら僕をここから出して欲しい、僕の腕なら、衝突を回避できる。
僕は航海士だ、自分の仕事を遂行したい」

と伝えると、演奏するオモイカネは聞いた。
「罪人の言葉を信じろというのか?」

チャラいオモイカネは答えた。
「君は信じてくれる。君はさっき、僕の目を見て語った、
正しくは僕の目を見たんじゃない、僕に自分の目を晒したんだろう?
曇りない本心を伝えるために・・・そういう目だった・・・・
本心を伝える時は、自分の目を相手にさらけ出せ。
と、昔、教師から教わったんだ」

演奏するオモイカネは言った。
「いい先生から教わったね、僕も親からそう教わったよ」

と、拘束を解き、共に甲板へ向かった。

 

氷山が接近する中、チャラいオモイカネは
「舵はこのまま!」と叫び、帆をさらに張り、船を加速させた。

「何考えてんだ!」と涙ボクロのクノイチがキレると、演奏するオモイカネは遮り
「プロの仕事に素人が口を挟むな、黙って見てろ」と言い
涙ボクロのクノイチは「マジムカツク、マジで嫌いだわ、コイツ」と呟いた。

なぜ嫌いな者と旅をしているのか。
演奏するオモイカネは、いつも兄弟たちと3人で芸術活動を行っていたが、
自立のためにそれぞれが一度離れて旅する事を選んだのだ。

踊りの得意な1人は、鍛冶師に一目会うためにアプス山脈経由でギル・ガへ。

歌の得意な1人は、白馬のクノイチ、義足のクノイチと共に裁判の間違いを伝えるため
ネル・ガへと向かう道のりに同行した。

演奏の得意な1人は、親の故郷に行くためにラハブ諸島経由で満月島へと向かう旅を選んだ。

その時、涙ボクロのクノイチも互いが一緒にいると遺跡の鍵となってしまう事から一度離れる事を選び
可愛らしい片方は、相思相愛である踊りの得意なオモイカネと同行し、
愛くるしいもう片方は、互いに嫌いあっているため丁度良いとされ、こちらに回された。
非常に不服であったが、毒の森にだけは行きたくなかった。
理由は毒ではなく単に虫に刺されるのが嫌だからである。

涙ボクロの愛くるしいクノイチは不機嫌な中、船は氷山に向かって加速してゆく。

そして次の瞬間、風の吹く方向、つまり、舵を切っても曲がりようの無い方向に舵を切り、
さらに、帆に裏を打たせる(強風で傘が逆に反り返る状態)事で、船は290度旋回した。
そして裏を向いた帆を戻し、風を受けた船は氷山のギリギリ側面を通過した。

簡単に言えば、チャラいオモイカネは想像を絶する神テクで衝突を回避したのである。
不機嫌だった涙ボクロの愛くるしいクノイチは叫んだ。
「神かよ!」と。

 

衝突を免れたが、そこに現れたのはエア王国の軍人であるクールなクノイチであった。

クールなクノイチは聞いた。
「なぜ船を救った?お前なら沈没する間に逃げられただろう」

チャラいオモイカネは答えた。
「君は自分の職務を果たさないのかい?僕は航海士としての仕事をしたまでだよ」

クールなクノイチは言った。
「ああ、果たす、よって再び拘束させてもらう」

チャラいオモイカネは言った。
「その前に、まだ航海士の仕事が残ってるんだ、行きたいところがあるんだけどいいかな?」
と言って、見張りのいる監視室へと向かった。

そもそもとして見張りの発見が早ければ衝突の恐れはなかった。
一体見張りは何をやっていたのか。
当直室へと向かうと、見張りは眠らされていた。
何者かによって、睡眠薬で眠らされていたのである。

「やっぱりね、こういう事でもないと、こんな事ありえないんだよ。
見張りをおろそかにするなんて海では自殺行為なんだ」
チャラいオモイカネが呟くと
エア王国の軍人であるクールなクノイチは気付いた。

つまり、この客船の航海自体が、王族暗殺計画であったという事に。
エア王国の王位継承をめぐっての暗殺である。

エア王国の王位継承は、当然の事だが核の力を持つタジカラヲとなるが
現在、王の子供はクノイチしか生まれておらず、
このままいけば、そのクノイチ中から先に生まれたタジカラヲが王位継承順位の第1位となるのだ。

となると、暗殺を加え立てたのは、王族の先に生まれたクノイチのだれかである、という事である。
すでに結婚しているが、まだクノイチしか生まれていない者の中の誰かである、という事だ。

クールなクノイチの心は揺れ動いた。
警護についた航海は、暗殺のための航海であったという矛盾に。
そこに王族のクノイチがやってきてこう伝えた。

「わたしは自由を選びます。もう王族ではありません」と。

演奏のオモイカネは呟いた。
「まあ、王族を出るならむしろ安全だろうね」

「しかし・・・」と
クールなクノイチが言いかけた瞬間

「うるせえバカ野郎!」
と、王族のクノイチはコップの水をぶちまけた。

その衝撃でクールなクノイチの覚悟は決まった。

「では、ご自由にどうぞ、その代わり、私も自由にさせて頂きます。
自由となったあなたの警護を私が勝手に行います」
と、クールなクノイチは言った。

警護の部下が叫んだ。
「それこそ王族の誘拐行為と変わりません!そんな事が許されると本気で思っているのですか!」

その瞬間、クールなクノイチは
「うるせえバカ野郎!私は自分の職務を遂行するだけだ!」
と近くにあったコップの水をぶちまけた。

涙ボクロの愛くるしいクノイチは、このフレーズが気に入り、次々と現れる警護に砂をぶちまけながら
「うるせえバカ野郎!」
と楽しそうに叫んだ。

 

それによって王族誘拐犯の特徴リストとして、
”砂をかける涙ボクロのクノイチ”
と、載る事になる事が想像できた演奏のオモイカネは、楽器を弾きながら警護達に弁解した。
「すいませんね、こいつこの言葉を言いたいだけなんですよ、すいませんね」
と、楽器を弾きながら警護一人一人に謝罪した。

そして、誘拐犯リストには「謝罪を奏でるオモイカネ」と載り、
演奏のオモイカネも同行せざるを得ない事態となった。

 

こうして
チャラいオモイカネ
クールなクノイチ
涙ボクロのクノイチ
演奏のオモイカネ

の4人は、王族のクノイチ誘拐犯御一行様として国際指名手配される事となったのである。