第3章 海賊イシュター

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エンリ帝国から独立した蛮族であるイシュターは海賊と呼ばれた。
珊瑚の美しいラハブ諸島の海域に接する他国の船を襲い、金品を奪う。

しかし、それには理由があった。
海に生息する魚介類の生態系を熟知しているイシュターにとって、
無造作に海域に入り込んでおこなう他国の漁業や交易は、生態系を荒らす原因でしかなかったからだ。
海は生きとし生ける者、全てのものである事は知っている。
ラハブ諸島は縄張りではあるが、あくまで生まれ育った自然を守るためであり自分達のものだとは思ってはいない。
部族全体で海を監視し、生きるための漁業であれば目をつむる。
しかし取り過ぎてしまった場合はその船を襲い金品を巻き上げる事で、遠慮という言葉を教えているのだ。
巻き上げた金品は、一族の子育てや戦士の育成に使われ、余剰分は生活用品に変えて他国へ送り届けた。
海賊行為は海の保護と一族全体の生活であったのだ。

そんな一族に生まれたオモイカネがいた。

オモイカネは10歳になると中立地である満月島へと送られ成人するまでそこで教育を受けて過ごし、
成人後は島に残るか、故郷へ戻るか、それとも世界を旅するか、自らの意思で選ぶ事ができる。

10歳の誕生日を目前に控えた頃、そのオモイカネは大地を疾走する騎馬民族ガル・バの乗りこなす馬に興味を持った。
クノイチの友と一緒に陸地に近づいたところをガル・バのはぐれ部族のタジカラヲに捉えられてしまう。
はぐれ部族のタジカラヲは、このイシュターの子供達を人質とする事でガル・バに有利な交渉を考えた。
オモイカネは自分一人が人質になる事を申し出「自ら進んで人質になるからクノイチの友を帰してあげて欲しい」と頼み込んだ。
タジカラヲは了承し、オモイカネは独り幽閉された。

交渉の日、イシュターにとって不利益な要求ばかりが続きオモイカネが不審に思っていたところ、
要求に葛藤しているイシュターの大人のクノイチ達は見せしめに惨殺された。
そして、人質は自分一人ではなく、クノイチの友はすでに奴隷として売られていたことを知る。
そのことを知ってしまったオモイカネは逆上し、力を開放する。
その瞬間に起こった事は、その場にいたはぐれ部族のタジカラヲ達の消滅であった。

はぐれ部族の無法を聞きつけ駆け付けた騎馬民族ガル・バの精鋭、
白馬のクノイチは岩場で一人立ち尽くすオモイカネを発見する。

そのオモイカネは核の力を持つタジカラヲであったとされた。
裏切られた怒りから自らの核の力を開放し、一瞬でその場にいた者が小型の太陽によって蒸発したのだと結論づけられ、裁判にかけられる事となった。
なぜならば、核の力は禁じられた力であるからだ。

そしてその裁判は、核の力を持たないイシュターや満月島のオモイカネは出席する事が許されなかった。

タジカラヲのみでおこなわれる裁判の日。
その日は10歳の誕生日であった。

子供とはいえ世界を滅ぼす可能性があるため、処刑判決が出る時、
顔を包帯で巻いた冥府の守り人であるネル・ガの族長が、その子をネル・ガで引き取ると申し出た。

万が一の時は冥府に幽閉する事を条件に、かつてイシュターで生まれたオモイカネであった者は、
10歳の誕生日と共に、ネル・ガの部族となり、その肌にネル・ガの入れ墨が彫られた。

そして月日は流れ、エンリ帝国との同盟で火力船を手に入れたエア王国は、
隣国にある鉱山の街ギル・ガを従える程の力を付け、ネル・ガをも飲み込み、
九頭龍につながる冥府の力さえも手にしようとネル・ガに攻め入る事になる。

その時、立ち向かったネル・ガの族長は、成人の誕生日の日に、族長に選ばれたばかりの若きタジカラヲ
そのネル・ガの入れ墨を持つ者は、かつてイシュターに生まれたオモイカネであった。