第2章 エンリ帝国 〜4節 言霊(コトダマ)〜

タジカラヲとクノイチの共通点は、争う、という事である。
体の構造が違うという事は脳や心の構造も違うのか、口論は絶えない。
同性同士であればどこかに着地点を持てる時もあるのだが
相手が異性となれば平行線を辿る時もある。
タジカラヲ同士が本気で戦うとどちらかが死ぬ運命にあるため、
戦いにもルールを決めて解決するしかない時がある。

しかし、クノイチの同士の争いで死ぬ事は稀である。
恨みから相手の死を望む事はあっても、自ら殺しに赴くわけではない。

タジカラヲは「ぶっ殺してやる」という気質に対し
クノイチは「死ねばいいのに」という思考だ。

タジカラヲは、相手を屈服させたい時は大きな体から物理的な手段を使うため、強い力を得ていった。

クノイチは、相手を屈服させたい時に物理的な手段は使わない。言葉を使うのだ。

この違いから言葉の発し方に違いが生じ、クノイチの放つ言葉には不思議な力が宿った。
その言葉を持ってすれば簡単な言葉でも、タジカラヲを屈服できる時がある。
タジカラヲが何かを主張しても
「あっそ」「だから?」それだけの言葉で戦意を失い、膝から崩れ落ちる者もいる。

タジカラヲの間には「何よりも恐ろしいのはクノイチの言葉だ」という格言がある程に、
その言葉は神格化し、その力の名を「言霊~ことだま~」と呼び、恐れた。

そして、その「言霊~ことだま~」は炎や氷など、各部族によって固有の力を宿していた。

「言霊~ことだま~」は大気中に存在する分子に働きかけ、
活動を活発化させる事で様々な現象を引き起こす事ができる。
こうしてクノイチは炎や氷、鉄や砂を自在に支配し各々の生活や戦いの術として使用した。